アヴァロンの箱庭
喉が張り裂けんばかり咆哮し、のたうち回る真冬に……しかしイブは彼の方に向ってそっと歩み寄ると、膝を付いて彼をその小さな体で抱きしめた。

「イ……ブ……?」

「ごめんね、マフユにこんなに酷いことをして。今までも散々苦しんできたはずなのに。辛かったよね。寂しかったよね。苦しかったよね。――私なら、分かるよ。例え世界が見放しても、私だけは貴方のことを理解してあげられるよ」

「イブ……僕、もうこの世から消えてしまいたいって……毎日毎日思ってたんだ……何回も何回も何回も何回もッ……! でも僕にはどうしようもなくて、どうすればいいのかも分からなくてッ……!」

「分かってる。分かってるから。だから落ち着いて。そのためにお兄ちゃんは、ここに来たんでしょ?」
 
暖かい。

狂おしいほどに暖かいその体温を感じながら真冬はイブを見上げると、イブは今度こそ何の狂気も深淵もない優しい顔で微笑んだ。

「お兄ちゃん。私ね、短い間だったけどお兄ちゃんと一緒に暮らせて、凄く楽しかったの。お兄ちゃんが例えどんなに私とこの世界を憎んでいたとしても、それだけは本当だよ」

「何を……言ってるの……?」

「だからお兄ちゃん。最後に一つだけお願い」
 
そう言ってイブは立ち上がると、真冬を見下ろしながら静かに告げた。



「私を……殺さないで」



その瞬間。

ベキベキと音を立てて、イブの全身が氷の結晶に蝕まれ始めた。
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