アヴァロンの箱庭
真冬がそう告げると同時に――イブを包んでいた結晶が彼女ごと一瞬にして砕け散った。
まるでそこにいたのが嘘だったかのように。
まるでこの世界で共に過ごした日々が夢幻であったかのように、
彼女はあっけなく無数の氷の破片となって、虚空へ消えて行って――
ベキベキッ、と。
その瞬間雪原の真ん中にも……そして灰色の空にも。
一瞬にして巨大な亀裂が走って、それが際限なく広がっていって。
そして――世界がガラスの様に砕け散るその寸前、真冬は空を仰ぎ見ながらポツリと呟いた。
「ごめんね……イブ」
「――やっぱり僕は、君のことを殺してしまったよ」
気が付くと真冬は、カーテンの閉め切られた薄暗い部屋のベッドで横たわっていた。
真冬は体を起こすと、無残に引き裂かれた枕やベッドシーツから目を逸らしてベッドから降りた。
床に散らかっている大量のカップ麺の容器やボロボロになった教科書を押しのけて歩き、机の上に置いてある埃を被った通学用の鞄を静かに見下ろす。
それから、鞄の隣に散乱した大量の白い錠剤が目に入って真冬は思わず顔をしかめ――その時、ドアの向こうから少女の声が飛んできた。
「お兄ちゃん! 起きてるの!? お姉ちゃん達はもう仕事行っちゃったよ! 今日という今日こそはお兄ちゃんを学校に連れ出すんだからね! ほら、早くここを開けて!」
その声を聴いて、真冬はゆっくりと顔を上げ――
数年ぶりの慣れない笑顔を浮かべながら、ドアの方に向って答えた。
「うん! 今から行くよ――真夏」
(終)
まるでそこにいたのが嘘だったかのように。
まるでこの世界で共に過ごした日々が夢幻であったかのように、
彼女はあっけなく無数の氷の破片となって、虚空へ消えて行って――
ベキベキッ、と。
その瞬間雪原の真ん中にも……そして灰色の空にも。
一瞬にして巨大な亀裂が走って、それが際限なく広がっていって。
そして――世界がガラスの様に砕け散るその寸前、真冬は空を仰ぎ見ながらポツリと呟いた。
「ごめんね……イブ」
「――やっぱり僕は、君のことを殺してしまったよ」
気が付くと真冬は、カーテンの閉め切られた薄暗い部屋のベッドで横たわっていた。
真冬は体を起こすと、無残に引き裂かれた枕やベッドシーツから目を逸らしてベッドから降りた。
床に散らかっている大量のカップ麺の容器やボロボロになった教科書を押しのけて歩き、机の上に置いてある埃を被った通学用の鞄を静かに見下ろす。
それから、鞄の隣に散乱した大量の白い錠剤が目に入って真冬は思わず顔をしかめ――その時、ドアの向こうから少女の声が飛んできた。
「お兄ちゃん! 起きてるの!? お姉ちゃん達はもう仕事行っちゃったよ! 今日という今日こそはお兄ちゃんを学校に連れ出すんだからね! ほら、早くここを開けて!」
その声を聴いて、真冬はゆっくりと顔を上げ――
数年ぶりの慣れない笑顔を浮かべながら、ドアの方に向って答えた。
「うん! 今から行くよ――真夏」
(終)