アヴァロンの箱庭
真冬はそう呟いて、雪に覆われた丘を登り切ったその瞬間に思わず息を呑んだ。
丘の上から見えるその雪原には、辺り一面に無数の氷解が散らばっていて――
氷の結晶で覆われたその一つ一つの中に、目を閉じたまま動かない人々が芸術作品の様に閉じ込められていたからだ。
そしてその一つ、真冬が上った丘の頂上にあった氷解にもまた、幼い一人の少年が閉じ込められていて……そしてそのすぐ隣には、雪原から剥き出しになった石に座ってその氷解を静かに見つめ、いやスケッチしている一人の少女の姿があった。
後姿からして、歳の頃は十二、三歳くらいだろうか。
着ているのは辺りを埋め尽くす雪と同じくらい純白の白いコートに、雪の結晶のデザインをあしらった可愛らしい短めのスカート。その下から伸びるのは、細く白皙したしなやかな足。
そして、小さな後頭部から流麗な滝の如く伝うのはシルクの様に美しいブロンドの髪。
その出で立ちは、後姿だけでもまるで雪の妖精を思わせるくらい幻想的で、蠱惑的で……ふと彼女は真冬の方を振り返ると、妖精というイメージに違わぬ端整で幼い顔立ちに穏やかな笑みを浮かべながら告げた。
「こんにちは。ずっとずっと、待ってたよ」
「僕を待ってた?」
「そう。とっても、寂しかったんだから」
そして――粉雪が舞い散る中、彼女は手に持っていたカンバスと筆を置いて立ち上がり、名乗った。
「私の名前はイブ。よろしくね、マフユ」
丘の上から見えるその雪原には、辺り一面に無数の氷解が散らばっていて――
氷の結晶で覆われたその一つ一つの中に、目を閉じたまま動かない人々が芸術作品の様に閉じ込められていたからだ。
そしてその一つ、真冬が上った丘の頂上にあった氷解にもまた、幼い一人の少年が閉じ込められていて……そしてそのすぐ隣には、雪原から剥き出しになった石に座ってその氷解を静かに見つめ、いやスケッチしている一人の少女の姿があった。
後姿からして、歳の頃は十二、三歳くらいだろうか。
着ているのは辺りを埋め尽くす雪と同じくらい純白の白いコートに、雪の結晶のデザインをあしらった可愛らしい短めのスカート。その下から伸びるのは、細く白皙したしなやかな足。
そして、小さな後頭部から流麗な滝の如く伝うのはシルクの様に美しいブロンドの髪。
その出で立ちは、後姿だけでもまるで雪の妖精を思わせるくらい幻想的で、蠱惑的で……ふと彼女は真冬の方を振り返ると、妖精というイメージに違わぬ端整で幼い顔立ちに穏やかな笑みを浮かべながら告げた。
「こんにちは。ずっとずっと、待ってたよ」
「僕を待ってた?」
「そう。とっても、寂しかったんだから」
そして――粉雪が舞い散る中、彼女は手に持っていたカンバスと筆を置いて立ち上がり、名乗った。
「私の名前はイブ。よろしくね、マフユ」