アヴァロンの箱庭
中に入るとイブは暖炉に火を起こし、燭台にも火を灯して明かりをつけた。
 
ゆらゆらと揺れる明かりに照らされた室内の中央にあるのは、丸太の椅子と重厚な木のテーブル。

壁際の棚には木彫りの人形が所狭しと並べられ、壁の至る所にはリンゴの枝と葉っぱで作られた可愛らしいブーケが飾られている。
 
リビングの奥には、これまた全て木で出来たクラシックなキッチンがあり、調理場は虹色に輝くリンゴ達が山積みになっている。

そしてキッチンの正面左、リビングから見て隣の空間は先程イブが言っていた通りアトリエになっていて、中央に置かれたイーゼルの周りにはこれまで書き上げてきた絵がずらりと並べられていた。
 
もちろん……その全ては、雪原で氷漬けにされているあの永遠に眠った人々の絵だ。

「とても居心地の良い住処だね。君が作ったの?」
 


真冬が尋ねると、イブはキッチンに立ってリンゴを手に取りながら答えた。

「ううん。私がここに来た時からあったよ」

「じゃあ、君はいつここに来たの?」

「ずっとずっと、前から」

素っ気ないその口調は暗に質問を拒んでいるように感じられて、真冬はそれ以上の質問をやめた。

「今からご飯作ってあげるから。マフユはそこで待っててね」

「いや、一人でやらせるのも悪いから手伝うよ。何をすればいい?」

「じゃあ、一緒にリンゴを剥いてくれる?」

「リンゴ? 他に食べ物は無いの?」
 
道中でずっとリンゴの木ばかり見てきた真冬が少し辟易とした口調で尋ねると、イブは笑って答えた。

「うーん……小麦粉とかお砂糖はあるけど、食べ物はリンゴだけかな。だから私は、いつもここで毎日アップルパイを焼いて食べてるの!」

「毎日って……よくそれで飽きないね」

「飽きないよ。だってここのリンゴで作ったアップルパイ、すっごく美味しいんだから!」

「そこまで言うんなら……」
 


真冬もキッチンに立つと、イブの隣に立って一緒にリンゴの皮を剥き始めた。
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