極甘同棲~エリート同期の独占欲を煽ってしまいました
彬良くんとだったら、と思わずにいられない。
どんなにか、夜景と美食とお酒と、そして彼に酔えただろう。

彬良くんはおらず、目の前に座っているのは三崎さんだ。赤ワインのグラスをゆっくりと手の中で揺らしている。

運ばれてきたアントレ(前菜)は、ガラスのプレートに並べられたスプーンに一口ずつ盛られているという凝りようだった。シェフが腕によりをかけたムースやジュレで飾られた、目にも美しい作品のような料理なのに。口に入れても、見事になんの味もしない。ただ咀嚼して飲み下す。

「ずっとかたい表情をしてるね」

当たり前でしょう、と言いたくなるのを、ぐっとこらえる。

「———お話ってなんでしょうか? 佐伯さんがどうとか、おっしゃってましたけど」

「佐伯くんねー」焦らすように、こちらに視線を流してくる。
「僕はね、そよかちゃん、きみは彼なんかにはもったいないと思ってるんだ」

はあ? どうしてわたしが彬良くんに・・いや、それを言うなら逆でしょう。彬良くんは、わたしなんかにはもったいないひとなんだから。
どこからどう飛んでくるか分からないボールを受けなくてはいけない、キーパーの心境だ。
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