極甘同棲~エリート同期の独占欲を煽ってしまいました
いくら恋愛経験がなくても、その意味するところを知らないわけじゃない。

でも知らないふりをしたい。せめて今は。

そよか、と声をかけられて顔を上げる。

「まだ夕飯食べてないんだろ?」

「あ、そういえば」
この騒ぎでそれどころじゃなかった。

「ちょっと遅くなっちゃったけど、近くに蕎麦屋があるから。食欲なくても、蕎麦なら入るんじゃない? それともなんか食べたいものある?」

「お蕎麦でいいよ」
彬良くんの気遣いが、素直に嬉しい。

近所のお蕎麦やさんで、わたしはとろろ蕎麦、彬良くんは天ざるをそれぞれ注文した。

「ごめんね、迷惑かけて」

「べつに。慣れてるし」

慣れ・・・反論できない自分が悲しい。
思えばわたしはいつもこうだったっけ。
「彬良くん、宿題教えて」「彬良くん、コンパス貸して」「彬良くん、友達とケンカしちゃったの」「彬良くん、どうしよう」「彬良くん・・」

さすがにわたしにも、甘えすぎだっていう自覚はあったから。
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