【短】どこまでも透明な水の底

そこからお互いに、けして告白なんてしないままの状態で…少しずつ…ほんの少しずつ軽めのボディタッチは増えてゆき…抱き締め合ったりキスをするような関係に発展するのに、さほど時間は掛からなかった。



彼女は拒まない。
そう、どこかで願っていたのかもしれない。
自分の中の腹黒い物が、そう、思わせていたのかもしれない。


「りん…」


想いを出来るだけ込めてそう呼べば、彼女は泣くような顔をしていて、俺の名前を繰り返す。


「りゅうさん…熱い…」


それでも一線を越えないでいるのは、自分が彼女よりも断然余裕があるから、というわけじゃなく…更には彼女にそう言った魅力がないわけでもなくて…。 


ただ、越えてしまったら、後はどうなるんだろう?という焦りだけが胸の中に、渦を巻いていたからだ。


欲しい。
全部欲しい。

願うのに、堰き止めてしまうんだ。
突き上げられる熱情を…。


捻じ曲げて、ジリジリと焦がして…年甲斐もなく地団駄を踏み鳴らす。


「好き…だけじゃな…」


ぽつりと呟いた。

そんな陳腐な言葉だけじゃ、足らなかった。
二人の世界はそんなものだけでは広がらない。
それなのに、自分の視界に入り込んで離れない、彼女の肌に触れたくて堪らない。

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