【短】どこまでも透明な水の底
年の数だけ恋をしてきた。
だから、今この年になって疲れてしまっていたのも、本音だ。
あの頃の、愛しさや恋しさ、儚さや切なさなんて、今はどうにでもコントロール出来てしまう。
どろりとした言い様のない群集心理には、もう二度と浸れない…そう、思っていた。
なるべく、平坦に。
心の中を抉られたくもなければ、見知ったようにあしらわれることもさせたくない。
出来るだけ、平穏でいたい。
叶うなら、密やかに……願うだけでもいい。
そう、全てを隠していたのに。
「りゅうさん?なんか凄い顔してる。なに?悩み?」
彼女は、人の気持ちにとても敏い。
そして何時でも直球勝負だ。
それが若さの所以かもしれないけれど…。
「いや?別に悩んでないよ?」
そういう俺の事をじっと見つめて、ふぅと溜息を吐く彼女は、時折とても大人びて見えて、酷く焦る。