【短】どこまでも透明な水の底
「もしかして……元奥さんの事とか?」
「…ん?」
「…まだ、忘れられない?」
「また、言ってる…そんなんじゃないよ」
「………」
漆黒の瞳に、吸い込まれそうになる前に、俺は彼女の手首をくん、と軽く引っ張って自分の腕の中に収めた。
「りんがいいよ」
「りゅうさん…」
「りんが、いい」
彼女の髪から漂うフローラルな香りに鼻孔を擽られ、俺はそこに顔を埋めると、またぽつりと呟いた。
「りんが、いい…」