【短】どこまでも透明な水の底
彼女に出逢った頃、確かに俺は離婚したばかりで荒れていた。
…多分、相当。
でも、その反面で彼女の視線には気付いていたんだ。
熱を帯びている癖に、半ば諦め掛けているその視線に。
長い事生きてると、それなりの心の護身術みたいなものが身に付いてきてしまって、その分狡くなる。
駆け引きは、得意じゃないと言っておきながら…。
気付けば、甘い駆け引きに身を投じていて、引き返せないところまで来ていた。