【短】どこまでも透明な水の底
あれは、何時までも過去に引き摺られたままじゃいけないと、薬指に未練の塊として鈍く光っていたリングを外した日。
自分の心情の表れのように、外は大雨が降り注いでいて、なんとも憐れになった。
自虐的なメンタリティ。
感情の起伏が、無くなった……そんな夜。
はぁっと長い溜め息を吐いて、俺は会社から自宅までを足早に歩いていた。
雨粒がこれ以上大きくなる前に、早く自宅に戻りたい。
そんな一心だった。
必然的に歩幅が大きくなる。
スーツに染み込んでいく雨に舌打ちをチッと短くした。
アタッシュケースの中の書類は濡れることはないだろうが、なんとなく気分が悪い。
はぁ…もう一度、深い溜め息。
そこに、突然入り込んでくるような…光景。