藤堂さん家の複雑な家庭の事情
そんな物買ってまで本格的な珈琲が飲みたいなら自分で淹れりゃいいものを、あたしにやらせる。


大体、その「本格的な珈琲」とやらの為だけに、天然水のウォーターサーバーまで家に置くところがまず面倒臭い。


キッチンに置かれてるから邪魔だし、ボトルがやたらと高額だったりする。


そこまでして「本格的な珈琲」が飲みたいなら、いっそ喫茶店でも開けばいいじゃないかと思うけど、それはまぁ養ってもらってる身としては口には出せない。


珈琲を淹れ終わって食卓に戻ると、タイミングを見計らったようにシャワーを浴び終えた兄がリビングに入ってくる。


兄は、まだモタモタと食べてる藍子の隣の席に腰を下ろして、珈琲を啜《すす》り、


「何か俺に言っとく事ないか?」

家族に問題が起きてないかの確認という、藤堂家の主《あるじ》としての役割を果たそうとする。


でも朝のこの質問には然程《さほど》意味がない。


あたしも藍子も、その日帰ってくるか分からない兄には、何かある度にメールで報告するようにしてる。


だから朝の兄のこの質問は口癖の一つみたいなもので、


「別に」

「ふーん」

兄も特別何かを聞きたいって訳でもない。


――ただ。
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