藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「別に」

『気遣いありがと』

「は?」

『時間がない俺に気ぃ遣って、いつもそう言ってるんだろ?』

「別にそんな訳じゃ――」

『心実は優しいな』

「……」

『今度、旅行でも行こうか』

「気が向いたらね」

『つれないなあ』

「もういいからシャワー浴びてくれば? あたしも琢の迎えの準備しなきゃだし」

あたしの言葉にクスクスと笑った惣一郎は、『じゃあ、後で』と「クスクス」を継続したまま言って電話を切った。


それから1時間もしない内に家にやって来た惣一郎は、琢の迎えと買い物に付き合ってくれた。


だらしのない兄が起きてきたのは、いつもより早い晩ご飯の支度が終わった頃。


兄はリビングで琢と遊んでる惣一郎の顔を見るなり「ああ、遅番か」と呟いて、あたしに「行ってこい」と当たり前のように言った。
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