藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「琢の事はまた別でしょ」

「でも、心実の子だから」

言ってジッとあたしを見つめる惣一郎の瞳が揺れる。


あたしはこの瞳を見る度に、無性に腹立たしくなる。


でもそれは惣一郎に対しての感情じゃなくて、どちらかといえば置かれてる現状にって感じだと思う。


ジレンマに近いものなのかもしれない。


過去に対して何も出来ないって現状が、こういう感情を湧き上がらせるんだと思う。


そしてその感情を抱くのは、決してあたしだけじゃない。


「珈琲淹れてくる」

そう微笑んで立ち上がった惣一郎も同じ感情を抱いてる。


言葉にしなくてもそれが嫌ってくらいに分かってしまうから、あたしは更なるジレンマを抱く。


そんな、どうにも出来ない事への苛立ちというジレンマを忘却するように、あたしと惣一郎は体を重ねる。


惣一郎が「ディナー」の後片付けを終えた後。本気で見る訳でもないテレビを点け、並んでソファに座って暫くすると、髪に触れられる。


「心実」

囁き声を聞き、まるで儀式のようだと思う。
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