藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「まあ、そうだろうね。話を聞いてる限りじゃ偉そうな態度も強がりだろうし」

「うん。だからあたしに恩を売りたいんじゃないかなって思った。口止め料って言い方でもいいんだけど」

「勉強を教えるっていう恩?」

「そう。愚痴ってるのを聞かれた訳だから何だかんだ言ってもやっぱり後ろめたいんだろうし。それに恩を売った事であたしが言う言わないって事よりも、口止めの為にこれだけやったって自分が思いたいんじゃないかなって。結局あたしの為ってより自分の為にそうしたいんだろうなって」

「なるほどね」

「だからしつこく言ってくるんだろうなって思ったから、場所と時間を教えてきた。来るかどうかは分かんないけど」

「来ると思うよ」

「そう?」

「相当焦ってるだろうしね」

「そっか」

「でも藍子ちゃんはそれでいいの?」

「あたし?」

「強がりであれ、元々の性格であれ、そんな偉そうな奴と一緒にいるの苦痛でしょ」

心配そうな表情で聞いたトワさんは、磨き終わったグラスを順番に片付けていく。


その動きを見ながら首を傾げたあたしは、


「んー、それは平気っていうか、実はあたしも井上先生とちょっと一緒にいたかったりするんだ」

あの時感じた率直な気持ちを口に出してみた。
< 13 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop