藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「何で?」

「鵜呑みにして困る」

「何で困る?」

「本当は違うのに、『トワさんはお姉ちゃんの為にホスト辞めたんだよね』って目ぇキラキラさせて言われるあたしの身にもなってよ。何かあたしが騙してるみたいな気分になるんだけど」

「そうだよって言えばいい」

「そうじゃないから言わない」

「心実の為に辞めたんだよ」

「その嘘、あたしには通用しないね」

「嘘じゃない」

「まあ、厳密に言えば嘘じゃないかもね。あたし達の為に辞めたんだから」

「……」

「ねえ、惣一郎。そろそろお兄ちゃんと藍子に本当の事話したら?」

言った途端にあたしに触れてた惣一郎の手が離れた。


ベッドの端に腰掛けてたあたしが振り返ると、惣一郎は枕に顔を埋めてた。


だから。


「ごめん、心実。翡翠にも藍子ちゃんにも言うつもりない」

小さな小さなその声を出した惣一郎が、どんな表情をしてるのか見る事が出来なかった。
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