藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「ううん。別にギャップはなかったっていうか、そりゃ井上先生も学校では偉そうな話し方はしないけど、愚痴を言わないってタイプでもない」

「ならあれだ。その先生が格好良くてちょっとお気に入りだったのに、そういう事言ってたからショックだったとか」

「それもないかなあ。井上先生も格好いい方だと思うけど、お兄ちゃんとかトワさん達の方が全然格好良いし」

「それはどうも」

「あたし、お兄ちゃん達の所為で妙に目が肥えちゃってて、ちょっとやそっとの格好良さじゃ何とも思わないんだよね」

「ああ、そこは『所為』なんだ?」

「うん。目が肥えちゃってとっても困ってる」

「俺らはさておき、翡翠が兄貴じゃなあ。あれ以上はそう滅多にお目に掛かれないだろうし」

「違うよ。お兄ちゃんだけじゃないよ。色んなタイプの『格好良い』を見慣れちゃってるから、幅広く対応しちゃって困ってるんだよ」

「あー、ホスト軍団に囲まれて育つとそうなるのかもなあ」

「臨機応変すぎて困る」

「藍子ちゃんも大変だね。翡翠がホストなんてしちゃったばっかりに」

「ううん。そこは何とも思ってない。思ってないっていうか感謝してるくらい。お兄ちゃん、あれだけちゃらんぽらんな事してたのに、お父さんが死んですぐ働いてくれて、血反吐《ちへど》吐くくらい頑張って、あたし達家族を養ってくれたんだし」

「あいつの場合、マジで血反吐吐いてたからなあ」

「うん。お兄ちゃん死んじゃうんじゃないかって何度か思った」
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