藤堂さん家の複雑な家庭の事情
そしてその「家庭教師」という役割を担うのは、


「うん。藍子ちゃん、来週から期末テスト始まるんでしょ?」

最終学歴が「高卒」のトワだ。


毎度の事ながら申し訳ない気持ちになる藍子は、「トワさん、ごめんね」と左右の眉尻を下げ、


「仕事あるのに……」

小さく言葉を紡ぐ。


その言葉に、トワは柔らかい笑みを継続したまま、「気にしなくていいよ」と穏やかな声で答えた。


実際この状態になった時、藍子が「仕事」として気にするならトワではなく、翡翠の方だ。


トワに家庭教師の役割を頼んだ翡翠は、これからテストが終わるまでの間、トワをずっと遅番にさせる。


その代わりに翡翠が毎日早番で店に出る事になり、翡翠は当分の間通しの仕事を余儀なくされる。


トワ以外に店を任せられる人間がいないから仕方がないと言えば仕方がない事だが、この期間に翡翠は少し痩せたりする事もある。


だがその事に藍子が気付く事はない。


「晩ご飯食べたら勉強しようか」

トワの優しい言葉に、「はーい」と答えた藍子は、部屋に戻って着替えを済ますとすぐに晩ご飯を食べ始めた。
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