藤堂さん家の複雑な家庭の事情

トワの家庭教師の時間が終わるのは、ひと段落ついたとか、今日は頑張ったからこれくらいにしておこうという理由ではない。


ただ単純に、


「ごめん、藍子ちゃん。俺、そろそろ帰って仕事行く用意しないと」

トワに許された時間がなくなるからなだけで、何ら段落はついていないし、頑張ったと言えるほど進んでもいない。


それでも時間は時間。


夜の10時を回り、限られたトワの時間は終わった。


トワが椅子から立ち上がると、藍子も「あたしもお風呂入る」と倣うように立ち上がる。


ふたりで一緒に階下に降りリビングに行くと、ソファでテレビを見ていた心実が、入ってきたふたりに気付き顔を向けた。


「もう時間?」

チラリと壁にある時計に目を向けた心実の髪はほんのり湿っている。


それが、少し前に風呂から出たという事を示していた。


普段は藍子が琢を風呂に入れる役目だが、テスト期間だけは心実が入れる。


これは心実の気遣いなのだが、藍子がその気遣いにどこまで気付いているのかは、甚だ疑問だ。
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