藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「琢の友達のお母さんに貰った。買いすぎたからお裾分けだってさ」
もちろんそれは嘘だ。
このケーキは、勉強のしすぎで思考が停止しボーッとする――藤堂家では「第二段階」と呼んでいる――藍子の為に心実が買ってきた物。
因みに心実は甘い物が好きだったりする。
それでもここで甘い物を投入するのは、自分だったら嬉しいから藍子も喜ぶだろうという心実の勝手な解釈に基づくものではなく、単純に藍子に糖分を補給させようという心遣い。
ただこのケーキが、雑誌に取り上げられるほど有名な、都心にある、1時間以上並ばないと買えないケーキ屋のショートケーキである理由は、心実の好みが7割を占めている。
だとしても、藍子はそれがどこのケーキ屋のケーキであるかという事にも、糖分を摂らせてやろうという心実の心遣いにも、当然気付いていない。
藍子には目の前にケーキがあるという事実と心実の言葉をそのまま受け取るだけで、
「お裾分け嬉しいね!」
そこにどんな意図があるかは関係ない。
そんな藍子を、ソファから見ていた、全ての事情を知るトワは、クスクスと笑いを零し、心実が淹れてくれた食後の珈琲を口にした。
もちろんそれは嘘だ。
このケーキは、勉強のしすぎで思考が停止しボーッとする――藤堂家では「第二段階」と呼んでいる――藍子の為に心実が買ってきた物。
因みに心実は甘い物が好きだったりする。
それでもここで甘い物を投入するのは、自分だったら嬉しいから藍子も喜ぶだろうという心実の勝手な解釈に基づくものではなく、単純に藍子に糖分を補給させようという心遣い。
ただこのケーキが、雑誌に取り上げられるほど有名な、都心にある、1時間以上並ばないと買えないケーキ屋のショートケーキである理由は、心実の好みが7割を占めている。
だとしても、藍子はそれがどこのケーキ屋のケーキであるかという事にも、糖分を摂らせてやろうという心実の心遣いにも、当然気付いていない。
藍子には目の前にケーキがあるという事実と心実の言葉をそのまま受け取るだけで、
「お裾分け嬉しいね!」
そこにどんな意図があるかは関係ない。
そんな藍子を、ソファから見ていた、全ての事情を知るトワは、クスクスと笑いを零し、心実が淹れてくれた食後の珈琲を口にした。