藤堂さん家の複雑な家庭の事情
質問を繰り返すものの、手に取った小皿を冷蔵庫から出す。


「買ってきた事黙ってりゃ、あった事すら分かんないんだから気にしなくていいよ」

心実がそう言った時には食卓に座り、ラップを外してイチゴにフォークを突き刺していた。


「いただきます!」

琢の嬉しそうな声に、「どうぞ」と返答した心実は、2つのコップに麦茶を淹れて琢の向かい側に腰を下ろす。


そしてコップのひとつを琢の目の前に置くと、もう1つのコップの麦茶を半分ほど一気に喉に流し込んだ。


「母ちゃんも食べる?」

「あたしはいいから食べちゃいな」

生クリームを口の端に付ける琢に、心実は笑って答えてコップを食卓に置き、今日の新聞に挟んであった広告でも見ようかと、食卓の隅に置いてあった新聞に手を伸ばす。


今日はケーキを買いに遠出した所為と、ケーキ屋に並んでいた所為で、時間がなくてゆっくりと買い物が出来なかったから、明日はスーパーを回って、安い食材を色々買い込もうかと――広告を見ていた心実は、ふと顔を上げた。


「琢、どうしたの?」

目の前の琢はフォークを置き、麦茶を飲んでいる。


すっかり食べ終わったって顔をしてる琢の前には、まだ半分残っているショートケーキ。


そのショートケーキには、さっき外したラップが再び被せられていた。
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