藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「お腹の調子でも悪い?」

好物を残した琢を心配する心実に、琢は「ううん」と首を振ってコップを置き、さっきまで使っていたフォークを手に取り、名残惜しそうにペロリと舐めると、


「藍子に半分残しとく」

白い頬に小さな笑窪《えくぼ》を作って満面の笑みを浮かべる。


その、いじらしい琢の笑顔に、心実の胸がジンと熱くなった。


「藍子はさっき食べたから残さなくていいよ」

「でも、オレ2個目だし、コレ藍子の為に母ちゃんが買ってきたんでしょ?」

「そうだけど……」

「じゃあ、藍子と半分こにする。藍子も食べたいかもしれないし、藍子勉強頑張ってるから、残しといてあげなきゃ可哀想」

「……琢、あたしさ」

「うん?」

「あんた見てるとたまに泣きそうになる」

「何で?」

「あんたが優しすぎて泣きそうになんのよ」

「へ?」

「こんな優しくていい子は他にいないんじゃないかって、感動して泣きそうになる」

「それって親バカって言うんだよ?」

「親バカ?」
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