藤堂さん家の複雑な家庭の事情

「今日はいい天気になりそうだな」

朝の食卓。


誰も天気の話をしていないのに――むしろ全員が無言だったのに――翡翠は唐突にそう口にした。


シャワーを浴びた直後でまだ髪が濡れたままの翡翠は、前髪を全部後ろに流し、藍子をチラリと横目で見る。


当の藍子はまるで聞こえていないかのように無言のまま、モソモソと朝食を食べ続けていた。


「いい天気になりそうだな」

今度はさっきよりもゆっくりと言葉を吐き出した翡翠は、藍子の方に体を向けてガン見する。


それでも藍子は俯いたままモソモソと朝食を食べている。


「藍子」

「……」

「藍子ちゃん」

「……」

「藍子さん」

「……」

「なあ」

「……」

「聞いてるか?」

「……」
< 187 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop