藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「じゃあ、やるだけ損じゃん」

「損ではないよ。翡翠にはこの店があるから」

「労力として損じゃん」

「ちゃっかり向こうの客をこっちに引っ張ってきてるから労力的にも損してないよ」

「へえ」

「それにね、藍子ちゃん。人件費とか家賃とか酒代諸々を抜いて計算すると、うちの店の方が売り上げいいんだよ」

「あっ、プライドだ。現役ホストに負けないぞってプライド見せられた」

「当然」

「トワさんってばホスト上がってもプライド高いんだあ」

「男の半分はプライドで出来ています」

「残り半分は?」

「何だろうね」

「お兄ちゃんなら『エロ』って言いそう」

「翡翠なんかの妹である藍子ちゃんの将来がとっても心配になった……」

眉尻を下げて情けない笑いを作ったトワさんは、何気ない感じで腕時計を見て「ああ」と呟く。


倣うようにあたしもお店の時計を見ると、もう20時5分前になっていた。


「もうこんな時間か。だから藍子ちゃん、翡翠が来る時間気にしてたんだね」

「うん。お兄ちゃん来たら車で送ってもらおうと思って」

「俺が送ってくよ」
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