藤堂さん家の複雑な家庭の事情
うんうんと、自分の言葉に納得するように頷きながら翡翠がした話は嘘である。


藍子は小さい頃そんな風に頭を打った事はないし、2、3日気絶していた事実もない。


だが翡翠はテストの後は毎回この話をし、心実は馬鹿馬鹿しいとは思いながらも、黙って「そういう事」にしている。


それもこれも藍子の為。


謂わばこれはもしもの時の為の保険であり、藍子への気遣いだ。


この話を信じているのは藍子本人と、カルビを食べ続けている琢のみ。


きっとこのふたりは、生涯この話が嘘だという事を知らないままだろう。


実際そうでなかったとしてもそうしておいた方がいいという事が、藤堂家には色々とある。


テストに関しての話題はそこで終わり、それからは和気藹々とした時間が流れた。


たらふく焼き肉を食べた藤堂家の誰もが、終始笑顔の慰労会だった。
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