藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「んじゃ、気を付けて帰れよ」
焼き肉屋の前。窓が開いてる運転席に向かって外から翡翠がそう声を掛けたのは、自家用車のハンドルを握る心実。
心実は車のエンジンを掛け、「はいよ」と答えて助手席にいる琢のシートベルトを確認し、
「何かあったら電話してこい」
「はいはい」
翡翠の言葉に軽く答えて、「じゃあね」と手を振り車を発進させた。
その場に残り、小さくなっていくテールランプを眺めていた翡翠は「さて」と小さく呟く。
そして隣にいる藍子に目を向けると、「行くか」と促した。
慰労会の後、翡翠は藍子とホテルに一泊して朝に帰る。
これも慰労会同様毎度の事で、今回が特別という訳ではない。
だから藍子もその事に違和感はなく、「うん」と答えてホテルに向かって歩き始めた。
ただ、二人が泊まるホテルはラブホテルではなく普通のホテル。
しかも必ずツインの部屋。
広めの風呂がある――それでもラブホテルのように広々としてる訳ではない――部屋にチェックインするのは、翡翠なりに理由がある。