藤堂さん家の複雑な家庭の事情
薄っすらと瞼を開いた翡翠に、ソファを指差しながら忠告すると、翡翠は心底面倒臭そうに体を起こし、ヨロヨロとソファに向かう。


その姿を目で追っていたトワは、出来れば思い出したくはない昔の事を思い出し、酷くやりきれない気持ちになった。


ホスト時代、トワは翡翠のこんな姿をよく見た。


家族を養う為に働く翡翠は、毎日動けなくなるほど酒を飲み、こうしてスタッフルームに屍のように転がっていた。


それでも翌日にはまた酒を飲む。


二日酔いや三日酔いどころの話じゃない。


酒が切れない内に次の酒を飲む所為で、いつの酒が残ってるのか分からないくらいだった。


その所為で体を壊したのは一度や二度の事じゃない。


店のトイレで血を吐いているのを見た事もあるし、背中が痛いと裏でのたうち回ってる姿を見た事もある。


何度か入院までする事態になり、このままこんな生活を続ければ死んでしまうんじゃないかと思った事もある。


翡翠のそんな姿を見る度に、それもこれも藤堂家に父親がいない所為だと、トワはいつも申し訳ない気持ちになっていた。


だから翡翠がホストを辞めてバーをすると言った時、もうこんな姿は見なくて済むとトワは心底ホッとした。


自分勝手な思いだと分かっていても、酔い潰れる翡翠の姿を見たくないと思ってしまう。
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