藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「ちゃんと寝てるのか?」

「寝てたのにお前が起こしたんじゃねえか」

そう笑って、最後のコゲた卵焼きを口に放り込んだ翡翠は、「残りはお前のだ」と弁当箱をトワに渡して天井を仰ぐ。


トワの手元に戻ってきた弁当箱の中には、心実が作った美味《うま》そうな物だけが残っている。


翡翠が、藍子の手料理だけは食べたかったのか、藍子の不味《まず》い手料理を食べさせるのはトワが可哀想だと思ったのかは分からないが、前者であり、後者でもあるのだろうとトワは思った。


「翡翠」

トワの呼び掛けに、天井を仰いだまま翡翠は「んあ?」と返事をした。


トワの方を見ないのは、何となくこの先の事を予想しているから。


そしてその予想を、


「何で金がいる?」

トワは裏切らない。


「何に金が必要なんだ?」

「……」

「言えよ」

「……」

「言わないなら、心実や藍子ちゃんに全部話すぞ」

トワのその言葉に、翡翠の目がようやくトワに向けられた。
< 240 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop