藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「心配しろよ」

「してる。してるから、ほっぺた引っ張るのもうやめて」

今度はわざとらしく「いてて」と言った藍子の頬から手を離した翡翠は、「何で制服なんだ?」と繰り返す。


それを聞いた藍子は少しムッとした表情を作り、「お兄ちゃんの所為だよ」と不貞腐れた。


「俺の所為って何だよ」

「お兄ちゃんが制服掴んだまま手ぇ離してくれなかったんじゃん。あたし補習も行けなかったんだよ?」

「全然記憶にねえ」

「今日行かなかったから、補習が終わる日一日延びちゃった」

「一日くらいいいだろ」

「補習終わった次の日は、友達とプール行く約束してたのに」

「文句ばっか垂れてんじゃねぇよ」

「文句じゃないよ。意見だよ」

「あー、はいはい」

「お詫びにプール代出してね」

「お詫びだあ?」

「うん。お詫びに二千円」

「高ぇな、おい」

「じゃあ千円でもいいよ? それならいいでしょ?」

「よくねえよ」

「えー」

「まあでも、千円くらいならやってもいい」

「本当?」

「その代わり、舌舐めろ」
< 257 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop