藤堂さん家の複雑な家庭の事情
一度家に帰ってから出掛ければよかった――なんて、今更後悔したところで後の祭り。


制服も覚えてないって事はないかな――なんて、希望はいくら何でも持ってる方が無駄。


そんな中、さてどうしようかと、本気で考え始めた時、あたしの運の悪さは最高潮に達する。


「どうせ教師になるつもりねェし、とりあえず教員免許取っとくってだけだから、テキトーに流すけどな。――つーか、便所」

背後の気配が立ち上がって、ゾッとした。


トイレに行くにはあたしがいる方向に来る事になるからゾッとした。


あたしが向いてる方向にトイレがあるから、行く時はあたしに気付かないだろうけど、戻ってくる時には気付かれる。


けど、そこまで思って井上先生がトイレに行ってる間に帰ればいいんだと、クソが詰まってるらしい頭で閃いたあたしは、テーブルに広げてた教科書とノートをすぐに片付け始めて――。


「……」


――鞄にノートを入れようとした時、ちょうど隣を通った井上先生と目が合ってしまった。


あたしが動いてたから何となくこっちを見てしまったんだろう井上先生は、体はトイレに向かったまま顔をほんの少しこっちに向けてる。


何気に見たってだけだからあたしが誰だか気付いてない。
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