藤堂さん家の複雑な家庭の事情
だからって帰るつもりもないらしい。


井上先生には、わざわざここまで来たって事だけが重要らしい。


だから。


「あの……」

「何?」

「二次関数ってよく分かんないんですけど……」

「俺、国語専修。畑違い」

「……」

質問しても教えてくれない。


いやもう本当に帰ってくれて結構だと――むしろ今すぐ帰って欲しいと――思った気持ちが表情に出たのか、井上先生はあたしにチラリと目を向けると、


「数字苦手なんだよ」

言い訳にならない言い訳をする。


この時点で本気の本気で帰って欲しくなった。


昨日ファミレスで思いっきり数学の教科書とノートを広げてたから、今日勉強するのは数学だって最初から分かってたはずなのに、自分の体裁の為だけに来て何もしないって人は帰って欲しいと心底思った。


「えっと、じゃあ、もう帰ってもいいですよ……?」
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