藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「よく分かんなくて」

「俺もよく分かんねェ」

「先生なのにですか?」

「得手不得手は教員にも政治家にもある」

「でも習ってますよね?」

「習ってんのと出来んのは別問題なんだよ」

「はあ……」

「あ? 何だこれ?」

「どれですか?」

「ちょっと貸せ。逆からだと余計に分かり辛い」

舌打ちをせんばかりの勢いで教科書を引っ手繰った井上先生は、それから暫く教科書を見ながらブツブツ言って、そのまま一旦外に出た。


分からなすぎてイライラしてあたしの教科書を燃やしにでも行ってしまったのかと思ったけど、5分後に得意げな表情で戻って来た。


「1回しか説明しねェからちゃんとしっかり聞いてろよ」

あたしの予想が正しければ、井上先生は大学の友達辺りに電話をして聞いたんだと思う。


右手に教科書、左手に携帯ってスタイルを見る限り、予想は当たってると思う。


十中八九予想通りであろう井上先生は、あたしのシャーペンを取ると、それで教科書を指す。


「いいか。二次関数ってのは0でない定数aと――」

説明を始めた井上先生の表情は、「大学生」から「先生」に変化した。
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