藤堂さん家の複雑な家庭の事情
一度帰宅したのか、ブルーのシャツにジーンズ姿っていう、学校では見る事のない格好をしてる井上先生は、合った目を正面に向けようとした。


その間際。


先生の視線がスッと下降した。


あたしの顔から体へと、何気なくって感じに下降した。


ほんの数秒の間に行われた一連のその動きは、本当の本当に何となくされたもので、合ってる目を逸らしたいって意思が働いてのものかもしれない。


けど、それがマズかった。


一旦正面に向き直った井上先生はハッとしてまた振り返ってくる。


分かりやすい「二度見」に、あたしは最初の姿勢のまま動けずにいて――。


「あっ」

なんて声は出さないものの、井上先生の表情が明らかにそう言った。


再び目が合ったまま流れる数秒の沈黙。


その間、井上先生の脳内で巡ってる思考が手に取るように分かる。


うちの生徒だ――って思った直後に、今さっきまで自分が友達に話してた事を思い出して、「シャレになんねェ!」と思ったに違いない。


表情がその思考を語ってる。
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