藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「厳しいって訳でもないんですけど……」

「俺、話してやろうか?」

「へ?」

「姉貴来んだろ? 俺が引き止めたって言ってやるよ」

「いえ、いいです。そんな事で許してくれるお姉ちゃんじゃないし、井上先生巻き込む事になっちゃうから」

「巻き込むってか、俺にも責任あんだしよ。つかお前、門限あるならあるって言えよ。まさか今時門限ある家があるって思わねェだろ」

「あたしももうこんな時間だとは思ってなくて……」

「あー、やっぱ俺が話すわ。疾しい事はねェんだし、勉強して飯食ってましたって言や分かってくれんだろ」

「いえ、本当にいいです。っていうか、分かる分からないじゃないんで」

「は?」

「お姉ちゃん、あたしを心配してくれてるだけなんです。だから疾しいとか疾しくないとかって問題じゃないし、分かる分からないでもないんです。遅くなった事でもうダメだから」

「心配は分かるけど、あのキレ方はやりすぎじゃね?」

「そうでもないんです。理由があっての事なんで」

「理由?」

「あたし、中学の時に電車で痴漢に遭ったんです。夜の8時くらいの電車で。それから怖くて夜の電車に乗れなくなっちゃって。だから家族はあたしがあんまり遅くなると帰ってこれなくなるって心配してくれるんです」

「電車でって……そ、そういうのは俺は被害者じゃねェから気持ちは分からねェけど、それでも帰ろうと思えばタクシーでも帰れんじゃねェかよ。絶対に帰れなくなるって訳じゃねェだろ」
< 50 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop