藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「タクシーは大抵運転手さんが男の人だから」

「は?」

「怖いんです」

「怖い?」

「車内に知らない男の人とふたりっきりで、どこかに連れて行かれるかもしれないって感じが怖いんです」

「……」

「だからお姉ちゃんは心配してくれてるだけなんで、気にしないで下さい」

言って席を立ったあたしは、


「このままだと先生がお姉ちゃんに何言われるか分からないから、先に出ますね」

そう付け加えて「ご馳走さまでした」とお礼を言った。


井上先生は何を言えばいいのか分からないって感じで立ち上がったあたしを見上げ、口を半開きにさせたまま固まっていたけど、


「あっ、そうだ。井上先生」

あたしが行きかけた足を止めて声を掛けると、ハッと我に返ったように表情を戻し、「何だよ?」と警戒するように眉を顰めた。


「昨日の事なんですけど」

「お、おう」

「あたし、昨日の先生の話を聞いててショックだったんです。でもどうしてショックなのかその時は分からなくて。理由を色々考えてたんですけど、それが今日分かりました」
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