藤堂さん家の複雑な家庭の事情
在りし日の兄妹

絶対的権力者

藤堂家では長男の翡翠が絶対的な権力を握っている。


翡翠の意見に、家族は誰も逆らわない。


各々《おのおの》が多少の主張はするものの、決定権は翡翠にあり、最終的に判断を下す翡翠が「黒」と言えば「黒」で、「白」と言えば「白」なのである。


その様な力関係が出来上がったのは、藤堂家の大黒柱だった藤堂泰成《やすなり》が事故で他界し、当時18歳だった翡翠がそれまでの生活を捨てて懸命に働き、家族を養ったからだ。


母親が再婚し家を出た後も、藤堂家に残った妹達を養い続けた翡翠は、父親が他界してからずっと藤堂家で絶対的権力者なのである。


但《ただ》しそれは「必ず」という事でもない。


藤堂家の妹達は、時にその絶対的権力者に歯向かう事もある。


これは、長女の心実が離婚して藤堂家に戻ってくるほんの少し前に、藤堂家で起こった些細な事件の話である。
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