白と黒と時々ピンク。
『研修期間は休めると思うなよ!』

部長に、入社してすぐに言われた言葉だ。

おそらく社長の知り合いという僕が部長には面白くなかったのだ。

事あるごとに僕は部長の“可愛がり”を受けた。

ひどい時には部長がたった今、断られたお客の所に行かされアポ取りを強要されたこともあった。

そのせいで何度か警察も呼ばれる事になった。

それでもビギナーズラックで契約が取れるようになると次第に部長の指導は減っていった。というより社長の激でそれどころではなかったのが本音だろう。

日々、憔悴していく部長は気の毒なほどだった。

気がつくと部長は会社に姿を現さなくなった。

事務の机に鬱の診断書と保険の書類が並べられているのを見て勝手に部長のものだと思った。


僕は大変な会社に入社してしまったと思ったが、他にすることが無かったので渋々出勤し続けた。

部長のいう通り休みは全く無かった。

日曜の仕事が終わり決まって社長が口を開く。

『うちの会社は月火が休みだからね!しっかり休んで来週も頑張るんだぞ!』

全く目の奥が笑っていない。口だけが動き魂のこもっていない言葉を吐き出す。まるで3D映像でお面が喋っているようだった。

一足先に社長が帰宅する。

その後、お約束のように課長がミーティングを開く。
そこで話される事も決まっていた。

『今月は成績が悪い。明日明後日は任意で出勤とします。出勤する人は手をあげてください!』

みんなが我先にと手をあげた。
これも暗黙のルールとなっていた。

僕は渋々最後に手をあげる。

そんなことが何週間も何ヶ月も続いた時、奇跡のようなルールが出来た。


“ノルマ達成ペースの者は必ず休むべし”


背景には労働法が厳しくなっている事もあり、どこの会社も強制出勤をさせることに懸念を抱いていた。

当社もついに達成ペースの者には休みを与える事になった。

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