ホテル御曹司が甘くてイジワルです
清瀬さんが私の唇を見ているのがわかった。
自然と私も清瀬さんの形のいい唇に視線が向いてしまう。
触れられてもいないのに、緊張で唇が小さく震えた。
その時、部屋に来客をつげるインターフォンのチャイムが響いた。
びくっとして体を硬くする私とは対照的に、清瀬さんはゆるゆると顔をあげいやそうな表情を浮かべる。
「……自宅兼執務室は合理的で便利だと思っていたけど、こういう時はひどく不便だな」
不満そうに言いつつ、私の腰に回した腕をほどこうとしない清瀬さん。
その間もインターフォンは鳴り続け、私は清瀬さんの腕から脱出しようと必死にもがく。
「だ、誰か来ましたよ! 早く出てくださいっ」
なんとか体を離すと、ガチャリとメインリビングから続く扉が開いた。
振り返ったそこに立っているのは、黒いスーツ姿の女性。清瀬さんの秘書だ。
「副社長、よろしいですか?」
そう言いながら入ってきた彼女は、プライベートなリビングスペースで向かい合う私たちを見て、不満げに眉をあげた。
「三木。勝手に部屋に入っていいと許可した覚えはないが?」
不機嫌そうな声でそう言った清瀬さんに対して、女性秘書の三木さんは綺麗な仕草で頭をさげる。