ホテル御曹司が甘くてイジワルです

「失礼しました。社長より伝言がありましたので」
「父から?」
「オーベルジュの進捗状況の遅れを不満に感じておられるようです。シェフの件や式場の件、資金は十分に用意してあるので早急に進めるようにと」

秘書の三木さんの言葉に、私は顔をしかめる。金を積んでもいいからさっさと解決しろということだろう。

「またその話か。自分のやり方で進めると何度言ったら……」
「今晩本社からこちらに見えられるそうです」

それを聞いた清瀬さんは、短くため息をついたあと「わかった」とうなずいた。

「では、夏目さん、でしたっけ」

彼女のするどい視線がこちらに流れてきて、驚いて「はい」と返事をする。

「副社長は多忙ですので、お引き取り願えますか」
「三木」

三木さんの言葉を、清瀬さんが低い声で遮った。私は慌ててふたりの間に入り、険しい顔の清瀬さんをなだめるように笑ってみせる。

社長がここに来るといっても、ただ親子で仲良く食事を、なんて雰囲気ではないのだろう。
副社長として、準備が必要なはずだ。

「大丈夫です。ちょうどそろそろ帰ろうと思っていたので」
「では私が家までお送りします」

そう言ってくれた三木さんに驚いて首を横に振る。

「いえ、ひとりで帰れるので大丈夫です」

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