ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「暗順応っていって、人の目は、光を遮断するとゆっくりと暗闇になれていくようになってるんです」
「本当だ。なんとなく、星が見えてきたきがする。こんな街中で星が見えるなんて思わなかった」
清瀬さんの感心したようにつぶやきに、得意げに胸を張る。
「プラネタリウムにいかなくたって、明かりがある街中だって、足を止めてゆっくり空を見上げる時間さえあれば、星は楽しめるんですよ」
「もったいないことをしていたな。いつも頭上にこんなに綺麗な光があったなんて知らなかった」
清瀬さんの言葉がうれしくて振り返ろうとすると、一歩踏み出した足元の地面がなくて目を見開いた。
「わ……っ!」
ドボンと大きな音がして、次の瞬間には私は水の中にいた。
なんの心構えもせず冷たい水の中に落ち、パニックになる。
真っ暗な水の中、どちらが上でどちらが下なのかわからなくて必死に水をかくと、指先から細かな泡が立ち上ってキラキラと光って見えた。
スローモーションのように揺らめく水面。現れては消える細かな気泡。
まるで夢の中の景色のような幻想的な世界に、心を奪われる。
わぁ、綺麗……。
思わずそうつぶやくと、開いた唇の隙間から一気にのどに水がながれこんできた。
ごぼっと自分の吐いた空気の音が、くぐもって耳に届く。