ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「ほら、溺れたくないなら暴れるな」
この深いプールじゃ私は足がつかなくて、仕方なく清瀬さんの肩にしがみつく。
だって、清瀬さんが目のやり場に困るとか、へんなことを言うから。
恨みがましい目で見ると、彼は私ではなく揺れる水面を見ていた。
濡れた髪や男らしい横顔、光を反射する瞳が綺麗で思わず見惚れそうになってしまう。
「……でも、確かに天の川の中を泳いでると言った気持ちが少しわかる」
そうつぶやかれ私が首をかしげると、清瀬さんは腕をのばした。
片手で私を抱き寄せたまま、もう一方の手で水面をすくう。
そこには、ゆらゆらと揺れる月があった。
「水面に月が映ってる……」
思わず私も手を伸ばし、清瀬さんと一緒に水面に浮かぶ月をすくう。
私の小さな手と清瀬さんの大きな手。そのなかで蕩けそうな柔らかい光を放つ満月がゆらゆらと揺れていた。
静まり返ったふたりきりのプールで抱き合っているなんて、なんだか本当に宇宙を泳いでいるみたいだ。
「綺麗だな」
ささやくようなつぶやきに、胸がつまる。