ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「今日はどこに行くんですか?」
車は街中ではなく郊外に向かっているようだ。何の気なしに尋ねると、清瀬さんが前を向いたまま答える。
「真央がいるのに申し訳ないが、口説きたい相手のところに……」
「え!?」
口説くって……、一体だれを!?
ぎょっとして飛び上がると、清瀬さんがくすくすと笑って訂正する。
「あぁ。口説きたいって言っても仕事の話だよ。どうしてもオーベルジュを任せたいシェフがいて、ドライブがてら挨拶をしに行きたいと思ってる」
なんだ。そういうことか。ほっとして胸をなでおろしながら清瀬さんを睨んだ。
「わざと紛らわしい言い方をしないでください」
「真央は意外とやきもちやきだよな。つんと澄ましてるつもりなのかもしれないけど、すぐに感情が顔に出て可愛い」
「……っ」
返す言葉が見つからなくて、顔を赤くして黙り込む。
見透かされてくやしい。だけど可愛いと言われてうれしい。
清瀬さんの言葉ひとつで自分の感情が制御できなくなってしまって、どうしていいのかわからなくなる。
「デートなのに、仕事を持ち出して怒ってる?」
黙り続ける私の機嫌をとるように、長い指が私髪を優しくなでる。