ホテル御曹司が甘くてイジワルです


「怒ってないです。むしろ、気を使わないで私がいるときもお仕事してもらえたほうが嬉しいです」
「どうして?」

私の答えに、清瀬さんが意外そうに首をかしげた。

「だって、そうしたら、少しでも清瀬さんと一緒にいられる時間が増えるじゃないですか」

私と一緒にいるときに仕事のことを考えないで、なんて我儘を言っていたら、忙しい清瀬さんと会える時間が減ってしまう。それなら、清瀬さんのお仕事に付き合って一緒にいられる時間が長いほうがずっと嬉しい。

そう言うと、清瀬さんがくしゃっと顔をゆがめて大きなため息をついた。

あきれられたかな?と不安になりながら彼の様子をうかがっていると、膝の上に置いていた私の手に大きな手が重なった。

「そんな可愛いことを言われたら、このままホテルの部屋に引き返してずっとふたりきりで閉じこもっていたくなる」

ぎゅっと手をにぎられ、心臓が飛び跳ねる。
ホテルの部屋で、ふたりきりで……。そう言った彼がなにを望んでいるかわからないほど子供じゃない。

求められて嬉しい。私も清瀬さんともっと一緒にいたいと思う。期待してないといえば嘘になる。



だけど……。

おそるおそる服の上から自分の脇腹のあたりをなぞる。

清瀬さんが私を愛してくれているのはわかっているつもりだけど。
心の中の天秤が、ゆらゆらと不安定に揺れる。
大丈夫かもしれない。でも、嫌われるかもしれない。

『真央ちゃん、ごめん……』

泣きそうな声でそう言った優しい彼の表情を思い出して、感情を抑え込むように唇を噛んだ。



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