ホテル御曹司が甘くてイジワルです


たどりついたのは小高い丘の上にある可愛らしいログハウス風の建物だった。

砂利がしかれた駐車場には、お客さんなのか車が二台停まっている。

「レストラン、ですか?」

清瀬さんがオーベルジュのシェフを務めてほしいと口説くくらいの人だから、もっと高級で仰々しいお店を想像していたけれど、アットホームな外観に少し驚く。

「ペンションだ」

周りは林だけれど、ペンションの建つ丘の周りだけ開けていて、まるで絵本の中に出てきそうな雰囲気だ。

「以前は東京の有名フレンチレストランでオーナーを務めていたシェフが、数年前に店を弟子に譲ってこのペンションをはじめたんだ」
「有名なレストランのオーナーが、ペンションをですか」

しかもこんな山の中のどかな場所に……。
意外だなと思ったのが伝わったのか、清瀬さんが頷いた。

「世界のベストレストランに名を連ねるほど有名で権威あるレストランのシェフが、突然店を辞めて表舞台から姿を消して、レストラン業界は当時騒然となった。今こうやって彼が郊外でペンションをしているのを知っているのは、一握りの人間だけだ」

レストランを弟子に譲ることで業界が騒然とするほどの有名シェフ。
もし彼がオーベルジュで料理をふるまうことになれば、話題になることは間違いない。

清瀬さんが忙しい中、足を運んで口説きたいと思うわけがわかる。

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