ホテル御曹司が甘くてイジワルです


料理は地元の食材を使ったコース料理だった。

新鮮な野菜に魚介のマリネを合わせた前菜。透き通っているのにおどろくほどコクがあるコンソメスープ。野菜やお魚が美しい層を作る鯛のミルフィーユ。そして惜しみない時間をかけて作られたのがわかる、牛ホホ肉のワイン煮込み。

味はもちろん目にも美しい料理たちに一皿一皿感激してしまう。

「すごくおいしいです!」

目を輝かせると、清瀬さんがこちらを見て柔らかくうなずいた。

家庭的なペンションの雰囲気に合わせているのか、特別珍しい食材を使っているわけでも、驚くほど独創的でもない、正統派のフレンチ。

でもお皿選びから調理、盛り付けまでものすごく繊細で、ひとつひとつ丁寧に心をこめて作られているのが分かる。高級で上質なのに、ほっと落ち着ける素敵な料理だ。

あの素敵な商館で、海や石畳の坂道を見下ろしながらこんな料理が食べられたら。なんて想像してしまう。

「気に入っていただけてよかった」

由美子さんがそう言って、私のグラスに赤ワインを注いでくれた。

清瀬さんは車の運転があるので、炭酸入りのミネラルウォーターを飲んでいる。
私だけお酒を飲むなんて気が引けたけど、料理と一緒にお酒も楽しんでほしいからと言われて甘えてしまった。

「料理はもちろんですけど、雰囲気も素敵ですね」

まだ夕食には早い時間のせいか、食事をしているのは私たちだけだ。
ほかのお客さんは二階にある部屋で休んでいるのか、周りの林を散策したりしているのかもしれない。

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