ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「あんなに頑なだった寺沢さんがオーベルジュを見に来てくれるなんて、どうやったんですか清瀬さん!」
車に乗り込んで、ハンドルを握る清瀬さんにたずねると、「彼の料理人としてのプライドをくすぐってみた」と笑う。
「プライド、ですか……?」
「プレアデスグループには契約を結んでプレアデスのためだけに最高級の食材を用意してくれる農家や農場が全国にいて、彼らがどれだけプライドをもってひとつひとつの食材をプレアデスに届けてくれているかが伝わる資料を用意した。寺沢さんが必要とすれば、国内だけでなく世界中からでもベストの物を探し出して用意できるネットワークがあることを分かってもらえれば、もっといろんな料理に挑戦できる。そこを丁寧にプレゼンすれば、一流のシェフである寺沢さんのプライドとチャレンジ精神を刺激できるんじゃないかと思ったんだ」
金銭面の話じゃなく、食材ひとつに至るまで手を抜かない真摯な姿勢を寺沢さんに示したんだ。思わず感心してため息をついてしまう。
そんな私を見て、清瀬さんが優しく笑った。
「だけどそれ以上に、真央のおかげだな」
「私、なにもしてませんよ?」
「由美子さんが寺沢さんにプラネタリウムを見てみたいと言ってくれたのが、一番大きな後押しになった。ありがとう」
確かに、頑固な寺沢さんがこちらに歩み寄ってくれるには、なにかきっかけが必要だったのかもしれない。
昨夜由美子さんとふたりで話していたことを思い出して、慌てて首を横に振った。
「わ、私はそんなつもりじゃなくて、ただ由美子さんと話をしていただけで、お礼を言われるようなことはなにもしてないです」
「じゃあ、下心のない真央の言葉が響いたんだな」
ハンドルを握っていた手がこちらにのびてきて、くしゃりと私の髪をなでた。
その指先の感触がくすぐったくて、はにかみながら首をすくめた。
少しでも清瀬さんの役に立てたなら、本当に良かったと嬉しくなった。