ホテル御曹司が甘くてイジワルです
私がそう言うと、副社長は視線を資料に落としたままで口を開いた。
「あのままのプラネタリウムを買収したところで、こちらになんのメリットもない。会社の金を無駄に使うつもりはない」
グループの後継者として認められ、副社長という立場にある彼は、その気になればあの小さなプラネタリウムの買収なんて簡単にできるだろう。
けれど、御曹司という立場に驕らず、決して公私混同しない実直な彼に、私のボスがこの人でよかったと改めて思う。
「そうですか。ではあそこで働いている職員がこのままでは潰れるという危機意識を持たないかぎり、間違いなく閉館することになるでしょうね」
「危機意識を持っていないのか?」
こんなにひどい経営状態なのに?
理解できない、と言いたげに眉をひそめた彼に、ふたつ持っているうちの片方の資料を渡した。