ホテル御曹司が甘くてイジワルです
寝耳に水
「本日は、坂の上天球館へお越しいただき誠にありがとうございます」
すぅ、と息を吐き出してから、マイクの前で話しはじめる。
「プラネタリウムの投影を始めるにあたり、何点かお願いしたいことがあります。プラネタリウムドーム内での飲食、喫煙、写真撮影はお断りしております。また、携帯電話の着信音も他のお客様のご迷惑になりますので、電源をお切りになるかマナーモードにしていただきますように……」
完璧に暗唱できるほど繰り返してきた注意事項のアナウンスを読み上げながら、手元のスイッチを操作してドーム内の照明を落としていく。
足元灯、誘導灯と順に明かりを消し、向かって右側、西の空に太陽を浮かび上がらせる。
「皆様が見ている正面が南。そして、丸い太陽が見えている右手が西になります。初夏のこの時期の日没は遅く、午後七時近くなってようやく西の地平線に太陽が沈んでゆきます」
プロジェクターで映した街並みに、薄橙色の偽物の太陽をゆっくりと沈めていく。