ホテル御曹司が甘くてイジワルです
悩みながらプラネタリウムドームを掃除していると、座席の下になにかが落ちていることに気が付いた。
手を伸ばし拾い上げると、バーガンディの本革に黒糸のステッチがほどこされた上品な名刺入れ。
みるからに上質なそれに、中をのぞかなくても清瀬さんのものだとわかる。
きっとプラネタリウムを見ているときに落としてしまったんだ。
「夏目さん、どうかしたかい?」
座席の間で座り込んでいた私に気付いて、館長がのぞきこんでくる。
「あ、これ清瀬さんの忘れ物だと思うんですけど」
「名刺入れか。きっと無くして困っているだろうね」
「ですよね……」
手の中の名刺入れを見下ろして考え込んでいると、館長に「夏目さん。今日はもういいから、ホテルまで届けてあげなさい」と言われてしまった。