ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「お客様の一言に耳を傾けどんなことにも力になるようにと社員教育をしたところで、自分たちの不満や意見が上司に聞き入れてもらえないような職場では……」
「心がこもったおもてなしができるわけがないですよね」
納得して私が深く頷くと、遠山さんがにこりと笑った。
遠山さんの口調や表情からも、清瀬さんがただの御曹司ではなく立派な経営者だということが伝わってくる。
「ちなみに、夏目様がホテルにいらっしゃったことも、ドアマンから私に連絡が入ってロビーにやってきたんですよ」
「え? 私、一度しか来てないのにですか?」
「副社長がこんな素敵な女性を連れてきたんですから、忘れるわけがありません」
歯の浮くようなお世辞をさらりと言われ、言葉につまる。
「……清瀬さんなら、毎日のように綺麗な女性を連れて食事をしてそうですけどね」
真っ赤になった頬をごまかすように顔をしかめると、くすくすと笑われてしまった。
「副社長の恋はまだまだ前途多難のようですね」
「恋だなんて。清瀬さんは私をからかって面白がっているだけです」
ぷんと顔をそらした私を、遠山さんが優しい表情でみつめる。そんな顔で見られると、なんだか居心地が悪くて困る。